マンション価格の高騰により、首都圏では1億円以上の“億ション”が発売戸数の1割強を占めるほどとなり、珍しい存在ではなくなりつつある。そのため、ハイグレードマンションと呼べるのは2億円以上で、それを現金買いする人が真の富裕層という見方が広がっている。最新の状況では高額のマンションほど早く売れるという現象も表れている。(住宅ジャーナリスト・山下和之) 【図表】1億円以上のマンションは、一般的なマンションより売れている?!
ついに“10億ション”も出現、大都市でじわじわと増加中
2022年4月、三井不動産レジデンシャルが東京都港区三田における総戸数1002戸の大規模マンション「三田ガーデンヒルズ」計画を発表した。三菱地所レジデンスとの共同開発で、ビンテージマンションの代名詞ともなっている「広尾ガーデンヒルズ」以来の「ガーデンヒルズ」ブランドのマンションになる。 専有面積は29㎡台から370㎡台で、価格は発表されていないものの、業界では最高価格は50億円前後になるのではないかといわれている。実際に一般分譲されれば、わが国の分譲マンションとしては過去最高価格になるだろう。 首都圏では、分譲価格10億円以上のマンションが増えているが、関西でも2021年11月に「ブリリアタワー堂島」(大阪市北区堂島)が最高価格10億円超で売り出されるなど、億ションどころか、“10億ション”という超高額マンションが増えつつある。
首都圏で億ションは、もはや普通!
そこまでいかなくても、億ションはこのところ新築マンション市場で着実に増えている。図表1は、首都圏の1億円以上の新築マンションの分譲戸数と、首都圏全体に占めるシェアを示している。 不動産経済研究所によると、月による変動が大きいものの、2021年4月から2022年3月までの1年間では合計3135戸の億ションが発売されている。首都圏全体の発売戸数は3万2872戸だから、1億円以上のマンションのシェアは9.5%とほぼ1割に達している。億ションはもはやさほど珍しい存在ではなくなりつつあるのだ。 全体の発売戸数に占める1億円以上のマンションのシェアは図表1の折れ線グラフにあるように、月によって10%を超えることもある。2021年4月、8月、2022年2月には15%前後まで増えている。立地先としては東京23区が中心なので、2022年4月と8月には、東京23区の平均価格が1億円を超えたほどであり、大げさにいえば、億ションもごく普通に市場に受け入れられている。 図表1 1億円以上の新築マンション発売戸数と1億円以上のシェア
首都圏では高額マンションほど売れている?
しかも、1億円以上でありながら、一般的なマンションと変わらず売れている。図表2は、やはり不動産経済研究所による新築マンションの月間契約率を示している。契約率とは、発売月に売れたマンションの割合を示しているが、ブルーの折れ線グラフを示す全体の契約率と、オレンジの折れ線グラフの1億円以上のマンションの契約率にはさほど大きな差はない。 むしろ注目していただきたいのは、東京23区の新築マンション価格が平均で1億円を超えた2021年4月と8月には、億ションの契約率が80%を超えている点。1億円以上のマンションのほうが一般的なマンションより売れているわけだ。 1億円以上のマンションを多数手がける大手不動産会社の営業担当者は、「都心やその周辺の高額マンションほど資産価値が高く、将来の値上がり期待が大きい。そのため、高額であっても富裕層が競って購入している」としている。 図表2 首都圏新築マンションの月間契約率 (単位:%)
2億円以上の高額マンションは、ほぼ現金買い
このように億ションが増えているため、最近では、「1億円未満のマンションの質が上がっていることもあって、1億円台のマンションとの差がほとんどなくなっている。ほんとうにハイグレードマンションと呼べるのは2億円以上ではないか」とする業界関係者がいるほどだ。 たとえば、専有面積にしても、東京の都心では1億円台のマンションは100㎡前後までが中心だが、150㎡から200㎡以上のゆとりある広さの物件は2億円以上になる。構造、外観デザインから仕様・設備、管理サービスに至るまで、1億円台までの住戸が中心の物件と、2億円以上が多い物件では差が大きくなりつつあるといわれる。 ひと昔前まで億ションとしてあがめられたグレードが高いマンションは、いまでは2億円以上でないと手に入らなくなりつつあるというわけだ。 それにしても、そんな高額なマンションを誰が買っているのか、買えるのか。大手不動産会社の億ションの販売担当者によると、「1億円台まではパワーカップルなどの高額所得者が住宅ローンを組んで購入できるが、2億円以上になるとローンで買う人はほとんどいない。ほぼ例外なく現金買い」と明らかに購入層が異なるという。 パワーカップルは夫婦ともに優良企業の責任あるポジションに付き、収入が安定している上に、都心やその周辺の資産価値としての評価が高いマンションを購入する。担保価値も問題ないので、金融機関も安心して融資できるため、夫婦合わせて1億円以上の住宅ローンを組むことができる。しかし、それも1億円台が限度で、2億円以上のマンションには手が届かない。
高額マンションを買って、夫婦2人で住む
では2億円以上のマンションを、一体どんな人たちが買っているのだろうか。 ひとつには、先祖代々のお金持ちで、さまざまな資産を持っている人たちがいる。高齢期に備えて、都心の利便性が高く、バリアフリーが徹底している最新のマンションを買っておこうとする人たちが少なくない。そのため、2億円以上のマンションは世帯人員が少ないのが特徴。夫婦2人で住むというケースが多く、モデルルームもファミリーではなく、夫婦のみの居住を前提とする物件が多い。 なかには、現在の住まいとは別に、迎賓館的に活用するための購入、賃貸で運用する投資用としての購入もある。 東京圏だけではなく、地方の資産家が東京などの高額マンションを取得するニーズも強い。地方に土地や家屋などを持っていても、資産価値は下がるばかりで長い年月の間に資産は目減りしていく。それに歯止めをかけるためにも、東京などの資産価値が高く、値上がりが期待できる物件を取得しておこうとする資産家が増えているのだという。上京した際の生活の拠点にするほか、投資用としての購入も少なくない。
高額マンションを購入するのは、事業で成功した経営者など
企業経営者の購入も少なくない。優良な中小企業の経営者やスタートアップ企業で成功した若い経営者などが、資産価値の向上が期待でき、換金性も高い高額マンションを購入するケースが増えている。都心のグレードの高いマンションを所有することで社会的な評価も高まり、事業資金の融資を受ける際などにも有利になるといった期待もある。 若い経営者が多いので、取引先などを招いて自宅でパーティーを開くには、都心のハイグレードマンションはうってつけ。外部との付き合いに有効なだけではなく、2億円以上の高額物件には経営者や各分野の成功者が住んでいるので、マンション内での交流によって人脈が広がり、事業にも役立つという期待もある。 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で一時は外国人の購入はほとんど途絶えていたが、最近はそれがジワジワと回復しつつあり、中国などから実物を見ないままで購入するケースも少なくないという。 高級物件見学のすすめ 2億円以上のマンションとなると、一般的な会社員では購入は簡単ではない。ただ、高級物件にはマンションの最先端の仕様・設備が盛り込まれている。これからマンションの購入を考えている人にとっても、十分な発見があるはずだ。一度はこうした高額物件のモデルルームを見学してみてはどうだろうか。