ローカル鉄道の経営状況を初公表
100円を稼ぐために1万5546円かかる路線も
人口減少や新型コロナウイルスの影響を受け、鉄道各社の経営が厳しいのはご存じの通り。東証に上場する鉄道会社の2021年度決算によると、JR東日本は▲2853億円、JR西日本が▲1443億円など、25社のうち22社の運輸事業は赤字を計上している。
こうしたなか、JR東日本は7月28日、採算が合わないローカル鉄道の経営状況を初めて公表した。対象になったのは、2019年度に1㎞当たりの1日平均利用者数(輸送密度)が2000人未満の35路線66区間。営業距離は約2200㎞となり、JR東日本管内全体の35%を占めるが、運輸収入合計から営業費用を差し引いた収支は、693億円の赤字だった。
赤字額が大きかった路線は、次の通り。
羽越線 村上-鶴岡 ▲49億円
奥羽線 東能代-大館 ▲32億円
羽越線 酒田-羽後本荘 ▲27.1億円
奥羽線 大館-弘前 ▲24.3億円
津軽線 青森-中小国 ▲21.6億円
もっとも赤字額が大きかった羽越線の村上(新潟)-鶴岡(山形)間の場合、年間運輸収入の6億円を得るためにかかっている営業費用は55億円。
採算が全く合わず、厳しい現状が浮き彫りになった。100円の収入を得るための必要経費を示す「営業係数」から見ると、久留里線の久留里(千葉)-上総亀山(千葉)間は1万5546円、花輪線の荒屋新町(岩手)-鹿角花輪(秋田)間は1万196円など、非効率な路線も目立つ。
今回の公表で浮き彫りになったのは、東北地方の厳しい経営環境だ。
輸送密度2000人未満は鉄道サービスの維持が困難とされる水準だが、66区間のうち6割を超える44区間が東北エリア。赤字額20億円以上の区間も、ほとんどが東北に該当する。人口減の影響を大きく受けた格好だ。
不採算路線の一部は鉄道以外の交通機関へ移行
コンパクトシティへの取り組みも加速する?
一般的に、鉄道各社は都市部や新幹線などの収入でローカル線の赤字を補填する「内部補助」を採用している。ところが、JR東日本の場合、コロナの影響でドル箱の首都圏在来線や新幹線の利用者数は減り、一部企業ではリモートワークが定着したことにより、コロナが収束したとしても前と同じ状況に戻るとは考えにくい。内部補助を維持し続けるのは厳しいと考えるのが妥当だ。
そもそも、鉄道は大量輸送を前提にした移動手段であり、輸送密度が低い区間の人件費や運行コストにリソースを投入するのは、公共性が高いとはいえ民間企業としての姿勢も問われる。
上場しているなら、なおさらのことだ。JR東日本としては、赤字路線の存廃について、沿線自治体との協議を早急に進めたいだろう。
国もこうした状況に手を打ち始めている。国土交通省の有識者検討会は7月25日、より経営が厳しい輸送密度1000人未満の区間を対象に、鉄道各社と自治体が路線の存廃やバス、高速輸送システム(BRT)への転換などについて議論する協議会を設置すると公表。国が関与することで、両者の議論を加速させるのが狙いで、3年以内に結論を出す方針だ。
どういったシナリオが考えられるか。基本的に、利用者が少ない区間は存続ではなく廃線だ。
現状が赤字で、将来的に人口増が見込めないので、第三セクターを作って営業を継続するのは非現実的で、先述したバス・BRTへの移行が濃厚だ。地方における公共交通・地域交通の主役は鉄道からこれらにシフトするだろう。どうしても存続させたいなら、自治体が鉄道の維持コストを負担すべきという流れになる。
地域交通の変化は、住民たちの住まいにもリンクする。都市部に比べると地方は車社会だが、鉄道がなくなると同時に生まれた廃駅の周辺は、賑わいが失われていくかもしれない。
そうなると、ターミナル駅周辺の転居する世帯も出てくるだろう。鉄道会社の経営モデルの見直しは、図らずとも地方におけるコンパクトシティ化を後押しするのかもしれない。
経営難に苦しむ鉄道会社はJR東日本だけではない。全国的に鉄道インフラの存廃に関する議論は高まるからこそ、人口減社会における公共交通やまちづくりのあり方を模索していく必要がある。